ソーシャルレンディング事業者のホームページを調べると、数多くの案件があります。その中でも、不動産関連が多いと分かります。
ソーシャルレンディングで「疑似不動産投資」をするのは、リスクが伴います。今回は、そのリスクを考察します。
ソーシャルレンディングの仕組み
ソーシャルレンディングの仕組みを、簡潔に確認しましょう。
ソーシャルレンディング事業者は、投資家から資金を集めます。それを、第三者に貸します。そして、資金を借りた人はそのお金を元に事業を実施し、収益を得ます。その収益を使って、返済します。
返済された額から手数料を除いた金額が、投資家に分配される仕組みです。
ただ、資金を借りた人が実際に返済してくれるかどうか、それは事前に分かりません。そこで、資金を貸した事業の対象になっている不動産に抵当権を付けます。
こうすれば、何らかの理由で資金を返済できなくても、担保にした不動産を売却して資金を回収できます。
ソーシャルレンディングの問題点
上の一連の流れには、何も問題がないように見えます。しかし、ソーシャルレンディングではどうしても回避できない問題点があります。
それは、「担保に取った不動産がどれなのか、公開されない」ということです。
これは、ソーシャルレンディング事業者がイジワルしているわけではありません。法律の運用で、公開できないことになっています。
このため、投資家から見れば、「どの不動産か分からないけれど、資金を募集していて、それに応募すれば、儲かるらしい」という状態になります。
投資家は、不動産の良し悪しを判断する材料がありません。そこで、ソーシャルレンディング事業者を信頼するかどうか?が重要になります。
返済不履行になったら、資金を回収できるか
投資家のこの不安を消すためでしょうか。多くのソーシャルレンディング事業者では、「貸付額は評価額の〇〇%までにします」という趣旨の言葉が書いてあります。
評価額の70%または80%まで貸すという例が多いように見えます。
例えば、評価額が1億円の不動産があって8,000万円まで貸すから、投資家を募集します、という具合です。
投資家から見れば、返済に行き詰まっても、不動産を売れば資金を回収できるだろうと期待します。なぜなら、評価額の70%~80%程度の資金だけ貸すからです。
1億円の不動産を売却すれば、8,000万円くらいは回収できると予想します。
しかし、この期待は見事に裏切られる場合があります。
その1:期待よりも売却額が低い場合
実例を見ましょう。SBIソーシャルレンディングの場合です。「SBISL不動産バイヤーズローンファンド」では、「担保余力評価総額に対する融資割合は、原則として80%未満です」と明記しています。
この案件で、資金を借りた人が返済しない事故が発生しました。
そこで、SBIソーシャルレンディングは、担保に取っている不動産を売却しました。しかし、売却額は、投資家から集めた額を下回ってしまいました。すなわち、投資家は損です。
下の文は、SBIソーシャルレンディングのホームページからの引用です。
なぜ、こんなことが起きてしまうのでしょうか。評価額の80%未満で貸したはずです。
これは、不動産売買の特殊性があると予想できます。
今回の案件は、億円単位の大きな話です。そこで、担保の土地を買える法人は、数が限られるでしょう。買う余力はあるけれど、土地は不要だという場合も多いでしょう。
そして、売る側(SBIソーシャルレンディング)は、投資家に資金を返済したいので、すぐに売りたいです。
この状況では、高値で売れる要素がありません。買う人は、無理に買わなくてもいいのです。「安値だったら買ってあげてもいいけれど、どう?」という具合です。売る側は、交渉するにしても、弱いです。すぐに売らなければならないからです。
こうして、安値での売却が成立するというのは、容易に予想できます。
評価額の80%を上限とするのは、貸しすぎ
以上のことから言えるのは、評価額の80%を上限とするのは、貸しすぎだということです。何%が適切か不明ですが、少なくとも、80%は多すぎます。
SBIソーシャルレンディングの事例では、資金を借りた人が返済しなかった結果、顧客は損失を被ってしまいました。
その2:評価額が不当に高い場合
(その2は、ただの想像です。)
例えば、ある不動産に抵当権をつけて、1億円貸したい事例があるとします。しかし、その不動産の評価額は1億円です。評価額の80%を上限とする場合、8,000万円までしか貸せません。
しかし、貸したいです。ビジネスで儲けるチャンスだからです。
この場合、どうするか。それは、「評価額を1.25億円にする」です。こうすれば、1億円貸せます。
評価額というのは、評価する人によって変わるものです。そこで、高めに評価したところで、不当かどうか判定できません。
しかも、ソーシャルレンディングの場合、担保にとった不動産の住所等を公開できません。担保不動産を公開する場合に比べて、不正を働きやすいでしょう。
その2の事例が、実際に行われているかどうか、それは外部の人には分かりません。
これが行われていないことを期待したいです。この部分は、業者を信頼するかどうかという話になってしまって、数字に基づく合理的な判断からは遠く離れています。
ソーシャルレンディング事業者は、潔白を証明したくてもできない
事業者は、その2の懸念をなくしたいと思うでしょう。しかし、正確に評価額を出していることを証明するには、どの不動産を担保に取っているのか公開しなければなりません。
ところが、不動産の所在地を公開することはできません。
このため、評価額を不当に高くしているのでは?という懸念は、どう頑張っても払しょくできないということになります。
顧客は損しても、事業者は損しない
以上考察してきた問題点が解決できない理由の一つに、「債務者が債務不履行になって損する場合、実際に損するのは投資家であって、事業者は確実に手数料を得られる」というビジネスモデルが原因だと言えます。
極端な話、債務不履行されて1円も返済できなくても、事業者は損しません(その後のビジネスに影響は出るでしょうが)。
このため、融資に際して審査が甘くなる誘惑がどうしても出るのでは?と不安になるかもしれません。
顧客ができる防衛策
では、ソーシャルレンディングに投資する場合、顧客ができる防衛策は何でしょうか。いくつかあるでしょう。
- 情報公開レベルの高さを確認
- 債務不履行時の資金回収実績を確認
債務不履行になっても、その旨をホームページで公開しない事業者もあるようです。情報を公開してくれないと、判断材料がありません。そこで、情報公開レベルが高い事業者を選ぶ必要があります。
そして、実際に債務不履行が起きた場合の、資金回収率を確認します。資金回収率が高い事業者で投資したいです。
事故が起きたことはありませんよ、という事業者も複数見受けられます。そのような事業者だと、安心感が高いです。資金を貸す段階での調査能力が高いことを示しています。